「緑膿菌カバーのためPIPC/TAZで治療開始する」という言葉をよくカルテで見かけます(自分もたまに書きます)が、目の前の患者さんに緑膿菌カバーが本当に必要なのか立ち止まって考える必要があります。
【病原体】

緑膿菌はブドウ糖非発酵型グラム陰性桿菌で、湿潤な環境を好みます。院内であれば、洗面台や浴槽にも生息します。一方でヒトの腸管内の常在菌ではありますが、皮膚には通常生息しません。
そして医療関連感染症や免疫不全者の日和見感染症の起因菌となりますが、健常人の感染症の起因菌となるのは極めて稀です。
<耐性獲得>

AmpC産生、ESBL産生など様々な耐性機序を持っています。とにかく耐性を獲得しやすいです。
<ムコイド産生型>
下図のような集簇して周囲にムコイド(主成分はアルギン酸)を産生する株があります。バイオフィルム形成にも関与して、抗生剤への治療抵抗や好中球からの貪食から免れやすい性質があります。嚢胞性線維症の75%で見られるが、通常の人では稀にしか認められません。気道の慢性炎症の原因となりますが、通常の市中肺炎の起因菌とはほとんどなりません。(ムコイドに包まれたままで、下気道に常在菌として存在して、ムコイドから浮遊すると急性増悪する)

【リスク】

<緑膿菌感染のリスク>
基礎疾患
・ 高齢患者
・ 重度の免疫不全
・構造的肺疾患
病歴
・敗血症性ショック
・デバイスの使用
・人工呼吸器使用
・血液透析
・以前の広域スペクトル抗生物質療法
感染症の特徴
・肺炎
・カテーテル関連感染症
構造的要因
・ユニットの生態
・以前の緑膿菌感染による定着
<耐性緑膿菌のリスク>
構造的要因
・耐性株が 20% を超える地域疫学(アンチバイオグラム)
・ユニット内の高い定着圧力(ICUやCCU)
病歴
・長期医療施設からの転院
・以前の入院
・以前の耐性 PA による定着
・広域スペクトル (カルバペネムおよびフルオロキノロン) 抗菌薬への曝露歴
・入院中の以前の広域スペクトル抗菌薬レジメンの数
・広域スペクトル抗菌薬への曝露期間
・気管切開
・中心静脈カテーテルポート
【臨床像】
#人工呼吸器関連肺炎
「人工呼吸器使用していて炎症高値≠人工呼吸器肺炎」であることをまず覚えてください。(感染症診断の原則ですが、まずは感染臓器の特定と患者背景、(+グラム染色所見)から起因菌を想定して、重症度からカバー範囲を決めます。)
人工呼吸器関連肺炎VAPにはmodified CPISスコアというスコアリングもあります。6点以上で肺炎と診断します。

ICUにおいて、緑膿菌はよくサーベイランスでも喀痰培養で検出されます。それが果たして感染を起こしているのか、あるいは常在しているだけなのか、発熱や呼吸状態、Xpから総合的に判断する必要があり、そこが臨床の醍醐味だと思います。(喀痰塗沫でGPCclusterの貪食像があるならMRSAカバーを行います。)
#カテーテル関連尿路感染症
尿定性で疑い、尿塗沫Gram染色と重症度から緑膿菌カバーを行うか検討します。検体の提出は尿道カテーテル交換後に行います。(緑膿菌は亜硝酸塩は産生しないですが、あくまで参考所見に留めます)
#緑膿菌菌血症⇔壊疽性膿瘡ecthyma gangrenosum (注:壊疽性膿皮症とは全く別です。)


緑膿菌菌血症は約40%は感染臓器/entryが不明です。そんな緑膿菌菌血症を疑う所見として知っといてもらいたいのが壊疽性膿瘡と呼ばれる皮膚病変です。緑膿菌が血管へ浸潤し、組織の壊死を起こし、浮腫を伴う紅斑や丘疹は、数時間で出血性の水疱となります。その後、水疱は痂皮化、周囲が隆起して赤紫色を呈します。臀部や腋窩に多発して認めることがあります。(皮膚の常在菌ではないため、基本的には菌血症の播種病変だと思ってください。緑膿菌性毛嚢炎から同じような壊疽性膿瘡を形成することもありますが、それで敗血症には通常至りません。)
緑膿菌以外でも認めますが、これに近い皮膚病変を見た時にはまずは緑膿菌を疑いましょう。
「敗血症に伴う壊疽性膿瘡は、急性型〔Kreibich(クライビッチ)型〕である。これに対して、慢性型〔Korting-Adam(コルティング・アダム)型〕は緑膿菌の局所感染で全身症状を伴わない」標準皮膚科学にはこんな記載もありました。
【抗生剤選択】
抗緑膿菌活性がある菌は調べればすぐに出てきます。個人的にセフタジジムCAZはGNRに絞っているので、de-escalation先として寵愛してます。
まずは、(感染症を疑っているなら)診察して熱源を特定して、血液培養2セット採取してください。熱源を特定できず(できなくても)抗生剤投与していいのは、基本的に敗血症性ショックと発熱性好中球減少症だけだと思ってください。
逆にその2つ以外で死にそうでないなら、必ずしも最初から緑膿菌カバーをしなくてもいいです。(構造的肺疾患ですが)COPDの感染合併であればABPC/SBTで治療を開始して、全身状態が良くならない時にPIPC/TAZにescalationをすればいいだけです。また、感受性判明前には、しっかりとアンチバイオグラムを確認しましょう(緑膿菌カバーしたつもりでもLVFXの感受性率が例えば70%とかの病院では意味がないというか不十分です)
緑膿菌は非常に厄介な菌です。すぐに耐性を獲得された苦い経験もあります。発熱性好中球減少症や、IP急性増悪の感染合併など後がない時などはしっかりカバーするべきです。カルバペネムやフルオロキノロン温存のためにメリハリをつけた緑膿菌カバーが重要です。
・皮膚の壊疽性膿瘡を見たら緑膿菌菌血症を想定する!(皮膚病変では黄色ブドウ球菌の微小膿瘍にも注意!)
・死にそうでないならescalation療法も検討する
・COPDの急性増悪で緑膿菌をカバーを行うか
→呼吸状態や全身状態による。起因菌としての検出は少なく、気道に定着しているだけの場合もある。状態が許すならescalation戦略で十分。
あと多剤耐性緑膿菌に出会った時には感染症内科の先生ときちんと相談しましょう。
参考文献
・Management strategies for severe Pseudomonas aeruginosa infections. Curr Opin Infect Dis. 2023 Dec 1;36(6):585-595.PMID: 37823536
・How the modified Clinical Pulmonary Infection Score can identify treatment failure and avoid overusing antibiotics in ventilator-associated pneumonia. Acta Paediatr. 2014 Sep;103(9):e388-92. PMID: 24891228.
・重症患者管理マニュアル
・小児感染症の診かた・考え方:感染症診療の原則が冒頭にしっかり書かれており、読んでいただきたい一冊。
・レジデントのための感染症診療マニュアル
・UP TO DATE
・標準皮膚科学
・感染症診療に役立つグラム染色
・日経メディカル「血疱形成を伴う黒色の表皮壊死といえば?」https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/yamanaka/201605/546818.html
・「壊疽性膿瘡を呈し緑膿菌による敗血症を併発した症例」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaamkanto/43/4/43_198/_pdf/-char/ja
・大阪市立大学 細菌学教室 公認「グラム染色」


コメント
CFPMは半減期が短いので、1日3回の方が良さそうです(観察研究 111名の解析- CFPM 4g/日の死亡率は44%、6g/日では9%と死亡率は有意に減少) https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/10600280251339770