(採血データや病歴は一部改変してあります)

85歳 男性
【主訴】徐脈/ショック
【現病歴】元々高血圧の既往あり近医かかりつけ。3ヶ月くらい前から動悸を自覚することがあった。
X-7日 労作時の息切れ、全身倦怠感が増悪した。
X日 午前中に近医を受診。息切れということでXpだけ撮影されたが、異常はないとのことで帰宅となっていた。その後、帰宅途中からだんだんと覚醒が弱くなり、一緒にいた奥さんが救急要請。目撃情報では特に痙攣・転倒のイベントはなかったとのこと。
【既往歴】高血圧のみ
【来院時現症】
JCSⅢ-200, HR:15, BP:50/20 SpO2:99% 酸素10L RR10

(似たような心電図でしたが、自験例ではさらに徐脈でした。)
肺雑音なし、心雑音なし、下腿浮腫なし
血液ガス:PH7.10, PCO2:40, PO2:300, Na:140, K:6.1 Cl:104, HCO3:15, Lac:2.0 Cre:6.0
Xp:気管・肺野に異常所見なし
【プロブレムリストのまとめ】
#意識障害 #徐脈 #ショック #代謝性アシドーシス
診断は?
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【診断】#高カリウム血症
意識障害は恐らくショックによる脳潅流低下と考えられます。
「徐脈」を見たら血液ガスと12誘導心電図を必ず取りましょう。

(引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/3/108_557/_pdfより)

(引用:亀田総合病院X https://x.com/kameda_gim/status/1547563363970199552 より)
ショックであれば本来代償性に頻脈を認めるはずであり、徐脈を認める場合は逆に鑑別を絞れることがあります。
本症例では血ガスで高K血症を認めたことから、それによるP波消失+完全房室ブロックと考えられました。カルチコール10ml+G I療法+メイロン1袋を投与し、速やかに徐脈は改善し、洞調律化、意識レベルの改善も認めました。腎臓内科の先生とは「このKの値でなんで起きたんだろうね。透析したら良くなるかな・・・」と話してました・・・・ところが入院後透析をしても再度完全房室ブロックを認めたため、今度は循環器内科に相談し、テンポラリー挿入となりました。
高カリウム血症が改善しても徐脈が改善しないとなると・・・
診断は?
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【診断】BRASH症候群

(引用:EMA症例150:12月解説より)
なんだかかっこいい名前がついていますが、Bradycardia, Renal failure, AV nodal blockade, Shock, Hyperkalemiaの頭文字をくっつけた症候群名になります。高K血症による徐脈と腎不全・アシドーシスによる房室伝導の障害が組み合わさり、著しい徐脈をきたします。またさらに、それによる循環不全が腎不全を増悪させるという負のスパイラルが起きているのがBRASH症候群の病態となっています。心不全に対するβブロッカーによる房室伝導抑制やMRAによる高K血症もこの病態をさらに悪化させることがあります。本症例では、これらの薬剤の内服はありませんでしたが、ひょっとすると3ヶ月くらい前に認めていた動悸は完全房室ブロックで、それにより急激にこの病態が加速していったのかもしれません。
本症例では高K血症に対して治療介入しても、房室伝導の障害が不可逆的に進行していたものと思われます。恒久的ペースメーカーを入れて、かろうじて腎代替療法は導入せずに退院することができました。
Intensivist「電解質異常に挑む」にもこのBRASH症候群が紹介されていました。そこでも「なぜこの程度のK値でこんなに徐脈になるんだろう?」と著者も疑問に抱いたことがあったそうです。
「典型例と違うな・・・」という感覚を大事にしていきたいと改めて思った症例でした。
・徐脈を見たら、血ガス+12誘導心電図!! 徐脈といったら高K血症!!
・高K血症の程度が弱い徐脈を見たら、背景に他に徐脈の原因があるかも考える(違和感を持つのが大事)
・本症例ではうっ血を示唆する所見が全くなかったがなぜか。
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コメント
ほぼCPAです、みたいな触れ込みで救急搬送となりました。HR15から改善して本当に良かった症例です。