診断は簡単だと思います。馴染みのない疾患かもしれませんが、発症の背景と誘引を考えてみてください。
70歳女性
【主訴】
意識障害
【現病歴】
2年前より多系統萎縮症の既往あり。 誤嚥性肺炎で加療後にリハビリ病院入院中。1日前の夜まで普段と変わらない様子であった。本日朝6時に、普段と異なるいびき様呼吸をしているのを巡回中の看護師が発見。呼びかけへの反応に乏しく、橈骨動脈も触知不良とのことで当直医が呼ばれたが、対応困難とのことで当院に転院搬送となった。
【既往歴】
多系統萎縮症、誤嚥性肺炎のみ
【来院時現症】
JCSⅢ-300
HR:50、BP60/40、BT:36.0、SpO2:95%(マスク10L)、RR:10
瞳孔:4/4mm 対光反射両側で迅速、項部硬直なし、いびき様呼吸、胸部聴診:両側air入り良好、心雑音なし、四肢:トーヌスはなく、末梢は冷たく乾燥。Babinski反射flex/flex
血液ガス:PH7.20、P02:300、PCO2:90、Na:140、K:5.0、 Cl:105、Ca: 1.2
Lac:2.0
心電図:narrowQRS 洞調律
胸部Xpポータブル:異常所見なし
【プロブレムリストまとめ】
#意識障害 #ショック #2型呼吸不全
診断は?
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【診断】#CO2ナルコーシス
2型呼吸不全を呈しており、救急部ですぐにこの診断でバックバルブマスク換気を行い、速やかに意識レベルの改善を認めました。経過観察のために神経内科で入院となりました。
ではこの患者さんはどうしてCO2ナルコーシスになってしまったのか。
・酸素投与をされた→意識障害との時系列が合わない
・痰詰まりによる窒息→P/F比での酸素化低下もなく、なんか違和感がある。
この患者さんを病棟で診察すると、喉頭部での聴診で高音の吸気性喘鳴を認めました。これは多系統萎縮症で認められる声帯外転障害と考えられました。改めて本人にも問診すると、たまに高音のいびきや喘鳴があることを自覚していた様子でした。多系統萎縮症の病状の進行と考えられ、家族に突然死のリスクの説明を行い、気管切開の選択肢を提案することとなりました。入院中だったため急変を早期発見されたものだと考えられます。
【診断】#多系統萎縮症による声帯外転障害 #CO2ナルコーシス
声帯外転障害は多系統萎縮症の15-40%の症例で認めます。それによる吸気性喘鳴は、舌根沈下や気道狭窄で認めるようなstriderと異なり、高音であることが特徴です(音声はYouTubeでも見つかりませんでしたが、猫のクラッキングのような音です)。呼吸音の割に本人の呼吸困難の訴えも少なく、初期には睡眠時のみに認めることも多いです。適切な予後説明のためにも、多系統萎縮症の突然死の原因として、頭の片隅にも入れておく必要があります。
病状の進行であり、今回の誤嚥性肺炎の発症も病状の進行であったと考えられます。CO2ナルコーシスや誤嚥性肺炎に限らず、”どうして今日発症したのか”を考える様にしたいです。
多系統萎縮症について、ぜひ医学事始のサイトもご覧くださいhttps://igakukotohajime.com/2020/10/03/%E5%A4%9A%E7%B3%BB%E7%B5%B1%E8%90%8E%E7%B8%AE%E7%97%87-msa-multiple-system-atrophy/
・意識障害の患者ではバイタルと血ガスを測定!「眼」「呼吸」「四肢」を診察する!
・原因不明の2型呼吸不全を見たら、神経疾患を思い出す。
・声帯外転障害は他のParkinson症候群でも認めるか?
→多系統萎縮症で特異的に認め、他のParkinson症候群では稀である。( Mov Disord. 2005 Aug;20 Suppl 12:S5-S10.PMID: 16092074)
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参考文献
・UP to date
・ Neurology. 2019 Oct 1;93(14):630-639.PMID: 31570638


コメント
声帯外転障害の吸気性喘鳴の音がわかるYouTube等知ってる方がいたら教えてください!